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Department of Mechano-Informatics, Graduate School of Information Science and Technology, the University of Tokyo
2016年1月25日

接触面の静止摩擦係数を検出するマイクロ触覚センサの開発に成功

1.発表者:

  • 下山 勲  (東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 教授、IRT研究機構 教授)

2.発表のポイント:

  • 押し付けるだけで物体の静止摩擦係数(注1)を計測できるマイクロ触覚センサの開発に成功しました。
  • 本技術により、靴裏と床との滑りやすさを検出して警告する靴や路面の滑りやすさを警告するタイヤの実現、ロボットの転倒防止などにつながることが期待されます。

3.発表概要:

 東京大学 IRT 研究機構(注2)の下山勲教授および同大学大学院情報理工学系研究科修士課程1年生の岡谷泰佑大学院生らの研究グループは、高いピエゾ抵抗効果(注3)を示し、高感度にひずみを検出することができるn+型シリコン(注4)を用いることで、物体に押し付けるだけでその物体の静止摩擦係数を計測することが可能なマイクロ触覚センサの開発に成功しました。

 これまでの触覚センサでは、滑ってからでなければ静止摩擦係数を計測することができませんでした。しかし、本マイクロ触覚センサでは、滑らせなくとも物体に押し付けるだけでその静止摩擦係数を計測できるというメリットがあります。

 例えば、このマイクロ触覚センサを靴裏やタイヤ、ロボットの足裏に取り付けることで、接地面を滑らせなくても、路面の滑りやすさを計測して警告してくれる靴やタイヤ、凍った路面などの滑りやすい路面でも足を滑らせずに歩行を行うロボットの実現につながると期待されます。

 本研究成果は、2016年1月24日から28日にかけて中国、上海にて開催される国際学会 MEMS2016 (The 29th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)にて、発表します。

4.研究内容:

 濡れた風呂の床の上を素足で歩くと、足は滑っていないにもかかわらず、滑りそうだと感じることがあります。これは、足裏の一部分だけがわずかに滑る感覚を敏感に知覚して、床面の静止摩擦係数の違いを検出していると考えられます。この例のように、歩行中に足が滑る前に床面の “静止摩擦係数”を計測できれば、接地面を滑らせなくても、床面の滑りやすさを警告する靴やタイヤ、ロボットが転倒しない最適な歩行速度や姿勢の制御などの実現につながると期待されます。

 これまで床面との接触力や滑りを計測するためのさまざまな触覚センサが研究、発表されています。しかしこれらのセンサでは実際に足裏が滑り出さなければ摩擦係数を計測することが困難でした。

 本研究では、高いピエゾ抵抗効果を持ち、高感度にひずみを検出することが可能なn+型シリコンをゴム材料中の複数点に配置することにより、物体に押し付けただけでその表面の静止摩擦係数を検出することが可能なマイクロ触覚センサを実現しました(図1)。

 このマイクロ触覚センサを物体に押し付けると、図2に示すようにセンサ全体は滑らないにも関わらず、ゴム材料の端部分だけが滑り出し、左右方向に変形します。この左右方向への変形量は、ゴム材料を物体に押し付けた際の押しつけ力の大きさと物体表面の静止摩擦係数に依存します。そこでゴム中に配置したn+型シリコン素子を用いて押し付け力と左右方向への滑り量とを検出・比較することで、物体との接触面の静止摩擦係数の計測を実現しました。

5.発表形態:

MEMS2016 (website : http://www.mems2016.org/ )
T. Okatani, H. Takahashi, K. Noda, T. Takahata, K. Matsumoto, and I. Shimoyama “A tactile sensor for simultaneous measurement of applied forces and friction coefficient”

6.用語解説:

注1 静止摩擦係数:物体の滑りやすさの指標。押し付け力と滑り方向に滑りはじめる力の比によって算出する値で、この係数の値が大きいほど滑りにくい物体であり、以下の式で書き表すことができる。

注2 IRT研究機構:少子高齢社会を ロボット技術で支えることを目的とし、2008年4月1日に東大総長室直轄として誕生した研究組織。 。

注3 ピエゾ抵抗効果:応力・たわみによって電気的な抵抗値が変わる現象。

注4 n+型シリコン: シリコン中にリンイオンなどの不純物を高濃度に添加した材料。

7.添付資料:

図1 接触面の摩擦係数を計測するマイクロ触覚センサ


図2 部分滑りによるセンサ変形の原理図